時効の援用を失敗するパターン

最終更新日:2025年01月07日

1 時効の援用とは

 消滅時効について規定する民法166条1項は、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または②権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、債権は時効によって消滅するとしています(民法改正後の規定です)。

他方、民法145条は、時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない、と規定しています。

 これらの規定については、一般に、消滅時効の効果は当事者による援用の意思表示によって確定的に効果が発生する、と解釈されています。

 つまり、債権者が権利を行使することができることを知った時から権利行使せずに5年の期間が経過したとしても(これを「時効の完成」といいます)、この段階では消滅時効の効果は不確定で、債務者が時効援用の意思表示をした時に効果が確定する、ということになります。

 それゆえ、時効の援用を失敗するケースというのは、そもそも時効が完成していなかったケースということになります。

2 時効が完成していないケース

⑴ そもそも消滅時効期間が経過していないケース

 貸金業者からの借入金の場合、消滅時効期間は、通常、返済をストップし期限の利益を喪失した時から進行します。

 この、期限の利益を喪失した日について、実際に期限の利益を喪失した日よりも早い日だと勘違いしていた場合、消滅時効期間が経過していなかったということが生じ得ます。

⑵ 消滅時効期間を勘違いしていた場合

 民法改正前については、営利企業からの借り入れには商事消滅時効の5年が適用され、非営利企業からの借り入れには改正前民法の10年の時効が適用されます。

 つまり、銀行や消費者金融、クレジットカード会社等営利企業からの借り入れの消滅時効期間は5年ですが、信用金庫、信用組合、日本学生支援機構、住宅金融支援機構等非営利企業からの借り入れの消滅時効期間は10年になります。

 時効期間が10年の借り入れについて、これを5年と勘違いしていると、時効の援用に失敗することがあり得ます。

⑶ 時効更新事由がある場合

 例えば消費者金融から借り入れがあり、期限の利益を喪失してから4年11か月が経過した時点で貸金返還請求訴訟を提起され、判決が出て確定した場合、時効期間は判決確定時から10年となります。

 また、同じ事例で4年11か月が経過した時点で一部返済を行ったり、和解契約を締結したりした場合も、時効期間は返済ないし和解契約を締結した時点から5年となります。

⑷ その他

 例えば、期限の利益を喪失してから12年が経過した時点で貸金返還請求訴訟を提起され、その訴訟について何らの対応もしなかったため原告(貸金業者)の請求を認める判決が出され確定した場合、時効期間は判決確定時から10年となります。

 訴訟手続で消滅時効の援用の主張をしなかったため、判決は、消滅時効の援用がないことを前提として出され、その確定により争えなくなるからです。

 また、期限の利益を喪失してから12年が経過した時点で消滅時効期間の経過を知らずに消費者金融と分割返済を内容とする和解契約を締結した場合、和解契約締結後に消滅時効の援用をすることは信義則上認められず、時効期間は和解契約を締結した時から5年となります。

 これらも、時効の援用を失敗するケースです。

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